「お買い物に行こう!」
「……いってらっしゃーい」
「ほらほら、ミコも準備して」
「わたしも行くの?」
「あたりまえだよ!」

 何十分か前の話でした。
 双海お姉ちゃんの突然の思いつきで、なんだか知らないうちに、街まで出ることになりました。ちょうど家に遊びにくることになってた、優夢ちゃんまで巻き込んでのお買い物です。
「じゃあ、どこ行く?」
「お姉ちゃん。もしかして目的もないのに街まできたの?」
「双海さん、私お金ないんですけどー」
 お姉ちゃんは、結局なにを考えてるのかわかりません。
「よし! まずはお昼にしよう」
 だいたい、こんな半端な時間に家をでるところから、よくわかりません。
「だから、お金ないんですけどー」
「お姉ちゃんを信じなさい!」
「たぶん大丈夫。お姉ちゃんお金はいっぱい持ってるから」
「そうそう。忠君愛国、滅私奉公。身体売って稼いだお金はたんまりと」
 分厚い財布をちらつかせます。やっぱり姉妹でも高校生はお金をいっぱい持っています。お兄ちゃんはどうなったのかな。
「え、どういうこと?」
「お姉ちゃん、腕力あるから、お国のために怪しげな物件の工事とかで、いろいろやっているんだよ」
「いや、今の冗談だから。突っ込んでほしいところだから。ほら、それとなく卑猥な表現だし」
「どこがですか?」
 わたしと優夢ちゃんは頭にあからさまなクエッションマークを浮かべちゃいます。高校の国語をやると会話も難しくなって困っちゃいます。
 
 やってきたのは近所の喫茶店。メイドさんみたいな制服とその他いろいろ人気の店です。
「田舎雑炊ひとつ」
「じゃあ、オムライス」
「えっと、サンドイッチセット」
 注文内容を伝票に書いて、ウエイトレスさんはカウンターの奥に消えていきます。
「ところでさー」
「なに?」
「あっちで騒いでいる客ってなんだと思う?」
「あっちですか?」
 お姉ちゃんの指した方向に優夢ちゃんと一緒に顔を向けます。そこはなんだかよくわからないカップルがよくわからないことを言っていました。
「で、なんだ、このぼったくってるような値段設定は?」
「制服がかわいければいいてもんじゃないわね。制服で金とりたいなら風俗店でも開業するか、秋葉原にでも進出しなさい」
「えっと」
 あからさまにウエイトレスさんは困っているというより引いています。
「新手の強盗か、なにかか?」
「それは違うわね。強盗だったらストッキングは頭にかぶるものよ。素直に足に履いてるからその線はない」
「えっとー」
「だいたいこのメニューはなんだ? おもいっきり洋風喫茶店になぜ田舎雑炊やうどんなんてものがある?」
「なぜだか、大食いメニューなんてのもあるわね。店としての趣旨を間違えたのかそれとも作為? どっちにしろイメージぶち壊しのバカ店ね。オーナーのセンスがうかがえるわ」
「ふえー」
 完全に泣きそうになっています。会話だけ聞いているとヤクザのいじめみたい。
「ちょっと、この大食いメニューって、出てくる食べ物は書いてあるけど、量とかが書いてないわね。これは大食いの常識すらも、覆すようなふざけたもの出して金だけ取ろうってのね」
「そ、それでしたら、こちらに写真が!」
 あ、やっと答えられる内容になって安堵したみたいです。
「画像が荒すぎよ。こんなんじゃわからないわ。それにサイズも実寸じゃないから、把握しづらい」
「中学で習わなかったのか? 客には知る義務があるんだから、もっと正確かつ明確に答えろ。できないようならメニューからしっかり作り直せ。指摘してやったんだから金は払わん」
 そう言ってさっさと出て行ってしまいました。客も店員もみんなあっけにとられて身動き一つできていません。
「て、っちょ、マスター! 食い逃げです、食い逃げ!」
 この掛け声で、ようやく時間が動きだしたみたいです。この分だと、料理が出てくるのはずいぶん後になりそうです。
「ミコ、優夢ちゃん。あんな大人になっちゃだめだよ」
「高校生くらいにみえたけど?」
「世の中にはM資金を知ってたり、原野商法に手染めてる、顔は仏陀、心はマキャベリな高校生もいるけど、そんなのになっちゃだめだよ」
 M資金ってなんだろう? どっちにしても、それを知ってるお姉ちゃんも一緒だと思う。それに、今も昔も歴史の教科書なんかに、絶対載らなそうなマキャベリなんて、知っているのもすごいです。
 わたしはお兄ちゃんの本で覚えたけど。
「で、ご飯食べたらどこ行こっか」
「だから、買い物するならしっかり計画たてて、行こうよ」
「ボクだって、最初はそう思ったんだけど、何か、こう、無性に、計画性のないことやってみたくなって」
「盗んだバイクで走り出す十五歳の人だって、家出の計画はたてるんだから、もっとしっかりしようよ」
「ほら、デートって二人一緒にいるだけで、楽しいっていうし」
 なんかお姉ちゃんが姉の威厳を保とうと必死になっているように見えてきました。
「これ、デートだったの?」
「ミコちゃん、女の子三人で出かけるところから、デートじゃないよ」
 あ、そっか。
「おまたせしましたー」
 そんな話をしていると、メイド風ウエイトレスさんが、ようやく持ってきてくれました。
のんびり、それらを食べ終えて店をでました。

 一方、お兄ちゃんたちの学校では
「いいかー、お前ら仮にも名門高校の生徒なんだぞ? それも入学してまだ一ヶ月。あたしはこの学校にGTOやりにきてるわけじゃないんだぞ? それをまあ、休日に呼び出しくらうようなことなんでするか。他校の学生証を偽造したり、スクールバスの乗車券を偽造したり、『一年生必見! 初めての高校テストはこれでバッチリ!』とか、わけのわからん特大新聞を掲示板に張り付けるは。前から言いたかったが、お前らアホだろ?」
「センセー、昼飯食っていいですかー?」
「いいか、せめて返事くらいはしろよ。どうせお前らのことだから京都にでもいけば、外人に鹿煎餅を鹿の肉入りとか言って高額で売りつけたり、温泉かっぱらって売りさばいたりするんだろうけど、せめて話は返事くらいしろ!」
「はーい!」
「ああもう! 小学生じゃねーんだ! いちいち笑顔で挙手して返事するな。昼飯? はっ! そんなもんこっちも食ってねーよ! かわいい妹の弁当も冷めちまってるだろうよ。一回職員室の電子レンジ使ってみるか? あれ三分以上連続で使うと爆発するんだぞ? そのたびに技術の先生方が奮闘するんだ、みんなに感謝」
「買い換えればいいんじゃないですかー」
「その根本である金を垂れ流すのが生徒の使命だろうが。それを、ちょろまかしてるのはどこのどいつらだ!」
「こいつです!」
「ああ、右向けと言えば全員で左向いて、左にしろって言ったのはこいつですと全員で指さすみたいな妙な団結するな、このサノバビッチめが!」
 こっちはこっちで大変そうでした。

「こういうときは、むやみに歩くよりも効率を考えてデパートあたりにしよう」
 というわけで、駅前のデパートまで行くことになりました。

 駅前のデパート。
 都心から離れたところにあるくせに、妙に大きいことで有名なところ。その他いろいろ普通。
「で、どこいこうか?」
「一階から上がってくのがいいと思うよ」
「目的もなんですしね」

【一階:ジュエリーショップ】
 キラキラした宝石がいっぱいです。値段表示を見るとばからしくなるので、都合よく宝石だけみるのが宝石に関するウィンドウショッピングの基本です。
「うわー、これ綺麗」
 お姉ちゃんは完全に値段無視で宝石以上に眼を輝かせています。
「ねえ、これつけていい?」
「あの、お客様のような方には」
「あ、お金あるから気にしなくていいよ」
 ほらほらと分厚い財布をみせびらかします。
「どうぞ、お好きなものをお申し付けください!」
「ありがとねー。ほら、優夢ちゃんたちも好きなのを、付けてってよー」
 お姉ちゃんは、こっちこっちと手招きしますけど、その後ろで店員さんがヒソヒソ話しをしてるのが気になってしかたありません。
 こっちが後ろで、他のお客さんとかにヒソヒソ言われながら、お姉ちゃんはひたすらきゃーきゃー言ったあげく、何も買わないでフロアをでてしまいました。
「綺麗だったねー。ボクもいつかマダムとかやってみたいなー」
「お兄ちゃんだったら、もう少しまともになってくれー。とか言うと思うよ」
「ミコ、似てない」
 物まねじゃないのに。

【二階:ホビーショップの隣】
 二階は大半が子供向けの玩具売り場。
 でも、わたし達がいるのはその隣の、パーティーグッズ売り場。
「みてみてー!」
 姉ちゃんはなにを思ったが、ヒゲメガネに『女王様』と書かれたタスキをかけたうえに、安っぽいビニール製の赤マントスタイル。かなり注目あびてます。
「お姉ちゃん、止めようよ、恥ずかしいよ」
「あうー、皆さんこっち見てますよー」
「ボクはゴージャスマダムー」
「お姉ちゃん、それマダムじゃなくて女王さま」
「少しは恥ずかしいとか思ってくださいよー」
 恥ずかしすぎです。友達にみられたら、なんて弁解しようか考えなきゃいけない状況です。
「いいなー。そうだ、夏はイギリスに行こうよ。そこでダイアナ妃みたいなマダムになって燃えるような恋をするの」
 ついには傍らに置いてあった魔法少女が使いそうなやつをなんとなく質素にしたステッキを振り回し始めます。
「お姉ちゃん、お願いだからもうその格好やめてー!」
「ちょ、店員さん睨んでますよ、あぶないですよ、警備員さんきちゃいますよー!」
 ああ、渡さんのマンガに出てくるドジっ娘の気分ですー。
「そうですよ、双海さん。だいたいダイアナ妃は燃えるよな恋するんじゃなくて、本当に炎上しちゃいましたから」
「あ、渡くん、おひさー」
「はい、おひさー。ところでなんでこんな死語みたいなもので挨拶するんでしょうね?」
「気にしない気にしない」
「なんでここに?」
「やあ、ミコちゃん、優夢ちゃん奇遇だねー」
 へらへら笑いんがら突如現れたのは、お兄ちゃんの親友渡さん。
 相変わらず謎です。服の下になにを仕込んでいるのかも謎です。
「ねえ、渡くん、英国っていったらなにかな?」
「そうですね、ミスタービーンとか?」
「メジャーすぎるかなー」
 会話が妙な方向に進んでいます。
「じゃあ、テレタビーズとか?」
「エッオー」
 その格好でテレタビーズの物まねされても怖いだけだよ、お姉ちゃん。
「なにしにきたの?」
「いやー、なんかあれです。愛の逃避行です。見てはいけないものを見た気がしたので、ダッシュしてたんです」
 言ってることがめちゃくちゃです。前後の脈絡、まったくありません。
「ふーん。じゃ、がんばってね。ボクたちはそろそろ行くから」
「はい、いってらっしゃい。ああ、都馬に六月二五日はよろしくと伝えておいてください」
「ラジャー」

 そう言ってフロアを離れました。当然、お姉ちゃんの装備していた各種オプションは棚に戻して。
 振り返ると渡さんは、女の子と話していましたけど、顔がかなりひきつっていました。

 その後、三階のランジェリーショップで、お姉ちゃんはわたし達に下着をみつくろって、「着せ替え人形ー」とか言いながら一人ではしゃいでいました。店員さんに止められるまで延々と。
 四階の本屋さんでは普通にファッション誌なんかを立ち読みした後、なぜか参考書のコーナーで辞書や分厚い問題集みたいなものを買っていました。ついでに、レジ前にならんでいた使い捨てカメラも一緒に。この瞬間が、今日一番まともな場面だった気がします。因みに、わたしと優夢ちゃんは文庫本をいくつか買いました。
 五階の電気店ではお姉ちゃんが展示品のパソコンのパスワードをはずしてまわり、周りの子供たちにゲームのやり方とか教えていました。すごく危ない行為のような気がしたけど、喜んでいるみたいだったのでよしとします。
 
 一方、夜更けも近い学校では
「ごめんなさいね、美海さん」
「ううん、大丈夫。どうせゴールデンウィークなんて家でのんびりするくらいしかないんだから」
 実は水原美海は友人、百合乃の頼みで、学校で書類整理をしていたりした。
「それにしても大変だね、これって先生たちの仕事でしょ?」
「そうね。けど学校行事に関するものだし、私たち生徒でやるのは、当たり前なのかもしれませんよ」
 頬に手を添えておっとりと言う。
「そういえば弟さんが入学されたそうですね」
「あれ? 都馬のこと知らなかったっけ?」
「はい、双海さんから色々と聞いてはいたのですが、会ったことはありませんね」
「そっか、じゃあ今度の球技大会とか、楽しみにしてるといいよ。都馬は運動神経いいから活躍間違いなし」
「それは楽しみですね。球技大会の華、水原姉妹にかわる活躍を期待できそう」
「華って、程じゃないよ。それにさ、私たちは今年で卒業なんだから、最高の球技体会にするにはやっぱり、都馬たちと一緒にやりたいよ」
 どこか遠い眼で机の上の資料を見ながら呟く。
 水原姉妹、そして百合乃はすでに三年生。
 進路の先には卒業するしかないのだから、
「今年は最良の学園生活でありますように」
「そうだね」
 同じ三年の双海が騒いでいる一方で、感慨深い想いを胸に、作業を再開する二人はどこか寂しげだった。

 デパートでは、いろいろまわりました。
 最後には最上階の高級そうなレストランでのお食事。
 優夢ちゃんは恐縮そうにしていたけど、最後のほうは笑顔でした。
 今は食後の紅茶です。
「疲れたねー」
「疲れたよー」
「疲れましたー」
 一杯飲んで、出た言葉は三者三様なのに内容は異口同音でした。
「ごめんね、無理につきあわせちゃって」
「ううん。楽しかったよ」
「ご飯までご馳走していただいて、ありがとうございます」
 急にお姉ちゃんはしんみりしたことを言い出す。
「けど、お姉ちゃんにしてはめずらしいよね。普段から子供っぽいけど、しっかりしているのにさ」
「うーん。自分より子供にそう言われるのも微妙かな」
 なんだか困ったように笑っています。
「あのさ、ボクと美海ってもう三年生じゃない?」
「そうだね」
「そうですね」
 なにを今更って、優夢ちゃんも思っているみたいです。
「美海は今日、学校で百合乃の手伝いに行ったわけ。でも、ボクはやることなし。なんか勿体ない気がしてさ」
「勿体ない?」
「そう。一応うちって進学校だから、三年になったらすぐに進路とか考えなきゃいけないの。で、へたしたらこの街出なきゃいけなくなるかもしれない。美海もそう。そうと決まったわけじゃないし、そうなっても死ぬまで会えないわけじゃないのだけどさ、余裕あるうちに思い出とか作っとこうと思ってね」
 カップの中の紅茶をみながら、困った顔から寂しそうな顔になります。
 たぶん美海お姉ちゃんも、似たような顔をしている気がします。
「さて、勘定すませて、最後の目的地に行こうか」
 唐突に立って、レジへ行きます。
 最後の目的地って、どこなのだろう。
「ねえ、ミコちゃん」
「なに?」
「双海さんたち、いなくなっちゃうのかな」
「お姉ちゃんたちの進路はお姉ちゃんたちが決めるの。ほら、お姉ちゃん待ってるよ」
 進路か。
 来年わたしたちも三年生だけど、やっぱり、わたしはお兄ちゃんたちの学園に行きたいと思う。そこから先はまだよくわからない。

 勘定をすませて、向かった場所はデパートの屋上。
 かなり高い場所で、手をのばせば、星がつかめそうです。
「上みるのもいいけど、こっちきてごらん」
 お姉ちゃんが手招きします。
「ほら、下だって星に負けてないよ!」
 屋上の端から見る街の光。上で光っている星と同じように下も光っている。
「綺麗ですねー」
「長いこと住んでる街だけどさ、まだまだ見てないものとか、いろいろあるんだよ。学校だってそう。一年後なんてわからないから、しっかり見ておきたいものは見ておく。学校の準備は美海がやってくれている。だからボクはボクで、美海にプレゼント」
 そういって、さっき買ったカメラで眼下の景色をいくつか写真に収めます。
「はい、おしまい」
 カメラをしまい。
「じゃ、帰ろうか」
 と、言ったとき。
「あれ、双海達なにやってんだ?」
「え?」
「あ」
「あ、双海さん、ミコちゃんに優夢ちゃんも」
 いきなり出てきたのはお兄ちゃんと沙織さんです。
「なにって、都馬に沙織ちゃんも何しきたの?」
「俺たちは宿題で、星の観察」
「ああ、ゴールデンウィークのときに、化学の先生が趣味でだすあれね」
「そ」
「渡くんが機材貸してくれるっていうから、ここでやることにしたんです」
「で、これがその機材な」
 お兄ちゃんは後ろから大きいトランクを出します。
「わりー、遅れたー」
 直後渡さんも登場します。どことなく傷だらけのような気がしなくもないです。
「遅い。これを組み立てるのは、お前の仕事だろ。さっさとやってくれ」
「あいあいさー」
 そういってトランクの中の部品とかを、どんどん組み立てていきます。
「どう、姉さんたちもみてく?」
「うん! みせてみせてー!」
「ああ、双海さんもうちょい待ってください。今ピントあわせたりしますから」
 それから、デパートの閉店の合図がかかってもわたしたちは星を観察しました。結局、閉店して数時間たって、警備員さんに追い出されるまでずっと。

 一方夜中の学校
 屋上では美海と百合乃が自販機のお茶を飲みながら星を見ていた。
「綺麗だねー」
「そうね」
 仕事も終わり、今はのんびり休憩。
 他で仕事していた先生や、部活の生徒もみんな帰宅してしまった静かな学校の屋上で二人は星の瞬きをぼんやりと眺めていた。
「ねー、進路どうする?」
「そうですね。まだあまり実感もないですし」
「そうだよね。先のことなんてわかんないもんね」
 はーっとため息も出てしまう。
「そうそう、先のことなんて適当でもいいんだよ」
「え?」
 突然後ろから声をかけられる。振り返るとそこには夏葵先生がいた。
「先生、なんでここに?」
「それはこっちの台詞。うちのクラスのバカ共を指導してて、気晴らしに屋上まできてみれば」
 やれやれ、といった感じで首を振る。
「まあ、最後の一年、思い出作りにこういうことするのもいいかもね」
「先生は、高校三年の時はどのような感じだったのですか?」
 百合乃は唐突に質問しはじめる。
「そうだねー。なんか普通だったよ。適当に勉強して適当に遊んで。まあ、行事とかはみんな思い出深かったってくらいかな」
「普通だったんですね」
「普通さ。べつに卒業するだけで、そう変わるもんじゃないんだ。あたしの場合は優夢もいたしね。街でないで上の大学行ったよ」
「上って、先生この学園の生徒だったんですか?」
「そうだよ」
 この街には大学はひとつしかなく、それは学園からエスカレターであがるところ。当然この学校の生徒ということになるが知らなかったことなので二人とも驚いた。
「ほれほれ、しんみり考えこまないで気軽に星でも見ようさ。そのうち忙しくなるんだからさ。今は楽しめばいいんだって」
 そういって二人の後ろに座って肩を叩く。
 
穏やかな日常の一つはあと数時間で終わりを告げ、まもなく休みも終わり、普段の平日に戻る。数ヵ月後の普段の平日がどうなっているのか分からない。しかし、二人と離れた場所で同じことをしている双海は深く考えることをやめて、空の営みを素直に楽しむことにした。