二学期
それなりに緊張感のあった一学期が終わり、のん気な夏休みが終わった後にやってくる新時代。
一年生としては一学期の緊張感が消え、そろそろ彼氏彼女の一人でもつくろうかという、まさにどうでもいい時期である。
そのくせ年通して一番長いのが二学期であり、行事やらテストやらが重なって一番忙しいのもまた二学期である。
最初の行事はそう、始業式。夏休みの怠けた雰囲気そのままに行われる長い話やら部活動の表彰、諸所連絡や校歌斉唱、当然そんなものに真面目に参加するほど殊勝でもなければ体裁を気にすることもない。俺、水原都馬は結局のところまた屋上にいるわけである。入学式のときのように寝ているわけでもなく、これから寝る気でもない。ポケットに入れてある文庫本を読む気にもなれなければいきなり歌いだしたりという奇行に走る気も全くない。
ぼんやり下界を眺めて過ごすだけだ。
眺めて過ごすにしてもはっきり言って退屈以外のなにものでもない。遅刻した生徒もいないらしく、見渡しても、遥か彼方の校門から昇降口への道にはだれもいない。
春はそれでも、桜を楽しむなんて風流なことが出来たが、夏休み明けでも三十度を軽く超える日差しの中で『ぼー』っとしているのは、放置プレイかなにかと勘違いされてもおかしくはない。
それでも屋上に、いまだに留まっているのには、それなりの理由ってものがある。たいした理由じゃないけど、それなりに興味をそそるものが真横にあるのだ。いや、あるというのは失礼かもしれない。つまり、いるのだ。女の子が。
高くもなければ低くもない身長。顔は童顔といっても差し支えないが、幼すぎるわけでもないかわいい系。マンガとかだとこれでも先輩だったりするのだろうが、現実的に考えてそんな感じもしないから同学年だろう。いや、同学年にもみえない。おこちゃまである。
制服はみたことないものだ。おそらく転入生かなにかで、まだうちの制服がないのだろう。高校で転入生というのはそれだけで珍しい。そんなだから、そのシチュエーションは美化され、突然の転入生は美男美女が相場という理論に発展したのだろうか。これなら文句なしにその理論は証明されたことになっていると思う。まったくもって、「こんなところでなにしてんの?」といった感じである。素直に質問もしてみたくなる。
「……」
無視。
たぶん話しかけるたびに三点リーダが長くなっていくんだろう。
やれやれといった感じで彼女の視線の先を追ってみる。
その視線先には空。
青とか蒼とかいろいろ表現できるんだろうが、簡潔に言うと空色が広がっているわけで、まだ夏でいいような時期なのに雲もなく空色一色のそれははっきり言って下界以上に退屈だ。見上げている分だけ首も疲れるし、毎年勤務ご苦労様な太陽の日差しが目に痛い。視線を隣の謎少女に移す。変態かなにかと間違われるかもしれないと思いながら唯一の興味対象は眺める。
「あなたこそでなにをしてるんですか?」
突然声が降ってきた。目線も俺にあっている。無表情で感情もこもっていない。語尾がわずかながら上がっていることから質問されているということはわかるが、本当に俺がなにしているのか、なんてことに興味があるのかあやしい。
「サボってるだけだ。見て分からないか」
適当に答えてみる。目の前の女の子は興味が失せたのかまた空に目を移す。なんとなくその態度が気に入らない。
「で、そっちはなにしてるんだ? 格好からして転入生ってやつだろ。普通は職員室あたりで待機してるもんだろ」
ガキみたいだが仕返しのつもりで質問しなおしてみた。
「…………」
結局また無視。沈黙もさっきより重苦しい。
やっぱりこいつも電波ちゃんか? そろそろ俺も生活習慣見直さないと殺人事件にでも巻き込まれるかな。
「…………空」
幻聴? まさか俺まで電波化するとは。って、そんなわけないよな。
「空を見てるのか。そんなことは言われなくてもわかる。退屈じゃないか? 雲もなけりゃ星もない空色一色の平面なんざ見ておもしろいのか」
平面と言ってもそれっぽく見えるというだけで実際そうではないのだが。
「……おもしろい表現ですねぇ」
ちょっと笑った。なにがおもしろいのか知らないがバカにされている気がする。
「そうですねぇ。もう、戻らないと」
結局なんだったのか、何もなかったようにスタスタと扉に向かっていく。
が、途中で、
「すみません。職員室に戻る道がわからなくなってしまったのですが……」
乾いた笑みを浮かべながら、名前も知らない少女を職員室までつれて行ったりする自分がなんか嫌だ。
教室に戻りクラスメートが戻ってくる前に一足先に席につく。
さてさて、だれもいない教室というのも案外珍しい。というかこの教室にだれもいないという状況が信じがたい。
俺が日直のときに普段よりかなり早く登校したことがあるが、寝袋持ち込んで教室で寝てるようなやつがいるようなクラスだ。改めて考えるといいもんだ。静かな教室。
授業中も静かって言えば静かだが、ちょっとオタクっぽい言葉が登場するたびに発狂するやつがいるのだ。世界史の授業でギリシアを習っている時はかなりきつかった。サンクチュアリだ、アテナだ、燃え上がれ俺のコスモ! とかなんとか。
休日だってあいつらと関わっていると落ち着く暇もない。
二ヶ月ほど前に愛海さんが帰国して以来余計に騒がしいのだ。
そういえば二学期なんだからアレだな。転入生やらがきて、さらに騒がしくなったりするかもな。
教育実習の時期はいつだったかな。そういえば交換留学生なんってのもあったな。ああ、あれはA組専用か。
ぼーっとしていると、いつの間にか廊下が騒がしくなってきた。
時計を見るとそれっぽい時間だった。
「都馬! 親愛なるクラスメート諸君が耄碌した爺さんの小言聞いてる間に、クーラーきいた教室でオアシス気分かね!」
一人怖いくらいの勢いでドアを開けて、突然叫びだす。例の如く渡だが。
「よー。今日の校長の話しはなんだった?」
「うむ。夏目漱石の『坊ちゃん』はボーイズラブかどうかについてだ」
日本文学ここに没とでもいった感じだな。しかし朝礼なんかは体育館ではなくチャペルで行われるわけだが、聖母マリアの描かれた巨大なステンドグラスの前で日本文学について語るのもどうかと思う。
その後、続々とクラスメートが入ってくる。みんな疲れきった様子で椅子にふんぞり返っている。一部の腐女子と呼ばれるやつらは校長の熱弁に感動したり怒ったりしている。
「ういー」
渡とは対照的にかなり静かかつゆっくりとドアを開けてちょっと猫背気味に担任が入ってくる。
クラスを見渡すこともなく黒板に『登校日』と書く。今日から二学期だということを考えるのすらいやといった感じだ。一部の狙ったやつか、真面目なやつかが今日から二学期だということを主張している。勇気ある生徒が肩を揺すってみたりもしたが殴られて終わった。
その後
「えー。二学期だー。まー、適当に」
ぐでーっと教卓にうつ伏せ、片手をひらひら振って、寝息を立て始める。
「センセー。HR終わりってことでいいんですかー?」
「おー」
かくして、本来なら三十分以上ある二学期初日のHRは数分で終了したのだが、
「だが、しかし!」
突然先生が立ち上がり、
「二学期の初日ないし、三学期の初日ないし、各年度の初めには、三年間通して一回くらいあってくれなきゃいけないイベントがあるはずだ」
うんうん、と勝手に頷いている。生徒一同は「また、なんかの影響か?」とか言い合っている。
「で、そのイベントとはなんだ、水原!」
「部活動の表彰」
「バカッ! 転入生に決まっているだろうが!」
突然渡が割ってはいる。一部のクラスメートは頷いている。
「その通りだ、高瀬! 水原さー。ユーモアのセンスあるのはいいけど、バカだろ? よし、みんな水原にバカって言ってやれ」
クラス中から「バーカ、バーカ」と言われる。他人を苛めることに関して、このクラスの団結力は相変わらず、すごい。
「それじゃ、入ってきて」
一人の女の子が開けっ放しのドアから入ってくる。
高くもなければ低くもない身長。顔は童顔といっても差し支えないかわいい系。マンガとかだとこれでも先輩だったりするのだろうが、今現在この教室に入ってきたってことは同じ歳なんだろう。
って、
(げっ!)
とか心の中で叫んでみる。声に出したもんなら昔のラブコメの主人公みたいだとクラス中から非難を浴びることだろう。
現在教卓の横に立って薄笑い、というよりは普通に微笑んでいるのはさっきの彼女だろう。双子なんていまどきのブームが適用されているとも思えないし、まさしくなんだろう。
夏葵さんは以前とは違い丁寧な字で、黒板に名前を書いていく。
「天川道流さんだ」
あまのかわみちる。あの字で、そう読むわけね。当て字くさいな。
「男子諸君。かまわんぞ」
突如歓声があがる。叫び、涙し、拝んでいる。
わからんでもない。シチュエーション的な追加要素もあるわけだが、かわいいの分類に入るのがやってきたのだ。それも今のところB組らしさをまるで見せていない。純粋なキャラだという設定がすでに確立されているのだろう。
「悪いね、天川。こういうクラスなんだ」
別段気にした様子もない。
「じゃ、恒例の質問ターイム!」
再び歓声があがり、一斉に手があがる。
「よし、それじゃ間中」
まず指名されたのは間中真一。半端に高い身長。スマートというよりやつれている顔にメガネ。今時授業中に教科書の裏に隠してマンガ読んだり、描いたりしている、まあ、古典的ながらも今風なオタクである。
「では、まず」
咳払いを一つして、
「どのような設定持ちですか!?」
質問の意図も意味も不明である。
「まず生い立ちは名家のお嬢様ですか? 病気がちな妹がいたいりしませんか? 昔近所に住んでたお兄ちゃんに今でも恋心を抱いてたりしませんか? 今朝方パン加えて「遅刻、遅刻ー!」とか言いながら走って登校しましたか? 途中で似たような男子生徒と曲がり角でぶつかったりしましたか? そのときイチゴ柄のパンツを見られて恥ずかしさのあまりそいつに平手打ちをかましたりしましたか!?」
アホがいる。いや、電波系のオタクがこんな感じだってのはわかりきったことなんだが。
「あ、あの、え、えっとー」
アホの奇怪な質問にかなり動揺しているらしい。さっき屋上で会ったやつと本当に一緒なのか不安感を覚える。
なんと言っても俺は沙織が男だってことさえ見抜けなかったほどのマヌケだ。
実はまるで関係ない他人だったりするのかもしれない。
まあ、なんにしても。クラス中の注目を集めるなか赤くなって下向いてしまった彼女は誰であろうとかわいそうだ。
「はあ、ごめん。天川。あんなバカを指名したあたしがバカだった」
途端にクラス中から「先生のバーカ」というシュプレヒコールが巻き起こる。
「だまれ、真のバカども」
途端に静かになる。
「じゃあ、一応はまともちゃんってことにしてやるから、水原質問してみろ」
今度は俺に注目が集まる。天川さんまでもが俺を見ている。しかし、一応まともちゃんという表現がひどく気に入らない。一応じゃなくて俺はまったくの普通人だ。不真面目ではあるが。などと気にしている場合でもない。
(やばいな…)
目を合わせた途端に向こうも微妙な表情に変化する。
さっきまで微笑を浮かべていたり、赤くなって俯いたりと、好きな人にはたまらなく萌えるとかいうことやっていたのに、今では完全に最初に会ったときのあの無表情に戻っている。天井が無ければ間違いなく空を見上げているだろう。
「お前がいくら、清廉潔白というより恋愛不能症だからって興味あるだろ? この萌えキャラ落とすのにだれだけ苦労したと思ってるんだ。普通に彼氏いるのかとかなんと聞いてみればいいだろう。でないと報われないぞ。あたしが」
別にあんたが報われなくても俺にはなんの関係もないのだが。けどなんか周りも鬱陶しいな。ああ、けど下手なこと言ったら渡や沙織になんて言われることか。
「ええっと、じゃー――」
「先生、そろそろ席についていいですか?」
いや、人が勇気を振り絞った矢先になにを言うのか。
「ああ、そうか。もう時間だしね。じゃあ席はお約束の窓際一番後ろの隣ね」
クラスメート諸君に一度礼をして席に向かう。その間俺は完全に無視された。
「ほんじゃ残り五分ほどか。よし、次の休みと掃除無しにして、席替えするか。天川はそのままな。それじゃあ、ルールを決めよう。方法は三角くじ。作るのは高瀬と小鳥遊の二人。教卓の上に箱を置いてその中にくじを入れ、出席番号順に引きにくる。聖地巡礼のオタクみたいに列乱したりしないように。その場で開いて決定する。決定したあと勝手に違う場所に座ったりした場合は教卓前もしくは、その周辺に強制転居。ほんじゃお二人よろしく」
渡と小鳥遊が教卓の方に向かい、手持ちのノートを千切って三角くじを作り始める。渡は現在このクラスの委員長的立場にある。小鳥遊については一応はまともな人間だからだろう。いや、微妙なところではあるのだが。
小鳥遊あゆか。これで『たかなし』とか読む。身長140センチくらい。いや、それ以下かも。顔もおもいっきり童顔。でもって声までアニメ風のロリ。ランドセル背負っていれば小学生で間違いなく通用する。間中的には「地上の神」だそうだ。まあ、そっちの方向のやつにはかなりクるものがあったのだろう。そういえば渡もいたくお気に入りって感じだったかな。
数分してくじも作り終わり、みなが順々に引いていく。黒板に書かれた座席表に次々と名前が書かれていく。一喜一憂って感じだな。さて、次は俺の番か。
「ああ、ストップ。水原は最後な」
「は?」
「間の抜けた声を出すな。はい、じゃあ次」
おーい。ってどんどん俺をつまはじきにして列は進んでいく。本当に最後まで俺の入る余地はなかった。
「じゃ、余ったところな」
「先生」
「なんだ、珍しい。あたしは先生なんて呼ぶとは殊勝になって」
「いえ、再考を希望します」
「はい、そんじゃさっさと移動してー」
話し聞けよ。
まあ、今更言っても仕方ないか。
ええっと、俺の席は――
「先生」
「なに?」
「わざとだろ?」
「あたりまえじゃん」
礼によって窓際一番後ろ。つまり、
「よろしく、天川さん」
な席なのである。
しかし、先ほどと違ってなぜかにこにこしている。見下しているという感じではなく、新しい玩具をみつけた子供みたいに。
「それじゃ、午後からは実力テストだから復習しとけよ。赤点とったやつは夏休みの宿題やり直しな」
つつがない午前の日程はかなり早めに終わり、長い昼休みが始まった。
渡の席に椅子を持っていて弁当を食べる。うん、さすが美恋音。今日の弁当もいい味付けだ。とても昨日のあまりものとは思えない。
「自分の席で食えばいいだろ」
「お前はあの状況をみてそんなことできると思うか?」
俺の席、というより俺の席の隣。クラスの男子と女子の一部が天川さんの席に群がっている。たぶんさっき出来なかった質問とかをしているのだろう。セクハラじみた質問が飛び交っているのは容易に予測できるが、それに恥ずかしそうに頬を染めながらも笑顔で対応しているあたりかなりすごいと思う。
「ふむ。萌えるね」
「そうだねー」
沙織までもが参加してくる。さっきまで自分の席にいたのに。ちなみに食ってるのは弁当。愛妻みたいな。
「なに、沙織ってあーゆーのがいいの?」
後ろから沙織に抱きつく形で登場したのが九重不思議。不思議と書いて『はてな』と読む本当に不思議な女性徒である。
ちなみに制服を着ていない。世間的にゴシックロリータ、略してゴスロリと呼ばれる格好で登下校し、普段の授業もそれでうける。
でもって、プールの授業は日傘差して見学するようなやつである。
ちなみに趣味はバンド活動。ゴスロリのままでギターを持って歌うのだが、なぜかヘビメタだったりというかなりの謎スタイル。しかしながらアニソンを歌うと思いっきりはまっているのは言うまでもない。ついでに活動中は性格が百八十度変わったりする。
「違う、違う。あーゆーのって案外都馬くんとお似合いっぽいよね」
「なーんだ、そういうこと。安心安心」
ちなみに愛妻みたいな弁当作ったのも九重である。趣味のことでかなり気が合うそうだ。傍からみれば思いっきりラブラブとかいう表現が似合いそうである。
余談ではあるが、百合っぽいと一部でかなり人気であったりする。片方男なのに。
「都馬は確かに古典ラブコメの主人公の設定に成績優秀とか、普通よりマシというレベルで家事とかできるっての付け加えただけで、思いっきりそのまんまだからな。突然の転入生と突然隣の席になったりか。周りに頼れるサブキャラもいっぱい居ることだし。どうだ、二ヶ月くらいでトゥルーエンド迎えられそうか?」
「なんの話しだよ」
「近年のそういった作品は一周するのに時間がかかりすぎると不評なのだ。だいたい二ヶ月五時間くらいがいいか」
「テンポもいいしね」
「けど展開はやすぎるとユーザー引くよ。地雷っぽいしねー」
そうそう、と三人揃って納得している。いまいち言っていることがわからない。俺がアニメとか好きだったのも昔の話だしな。
「けど二ヶ月だと初日でだいたいのキャラ登場させて、一ヶ月くらいで個別ルートに入るとして……エンディングが説明不足っぽくならない?」
「いいんじゃない。どうせエロゲーなんてエロ無かったら存在意義なしだし。やっちまったらオッケーってことで」
エロゲーの話しかよ。せめてコンシューマで出るの待てよ。
「いや、それは違う」
「うおっ!」
突然背後から間中が現れた。黒く重苦しい雰囲気のオーラを纏って。
「九重。お前何言ってんの? たしかにエロゲーはエロあってこそのエロゲー。だけどさ、現状はどう考えても普通のラブコメ。ラーブーコーメー! ラブコメはそんな不純な目で楽しむものではないだろ。不純を楽しみたいなら鬼畜ゲーでもやってろ。だれもが体育館で青春の汗を流している中、秘密の体育倉庫でいい汗かいてろ」
「で、なにしにきたの?」
一時間ほど前から衰えることを知らないハイテンション間中を軽く一蹴する。
「ああ。面白いシチュエーションが教室の一角で展開しているのをよそに、独自にお友達空間を形成する。これもまた青春学園ストーリーの一つの形かと思いまして。高瀬、どうよ」
「個人的には都馬との同棲ルートとか希望だな。きっついお姉さまがたの姑じみた攻撃とかわいい妹の積極的なアプローチ。いいんでない?」
「いいなー」
「すまん、なんの話しだ?」
「いやだから、主人公を都馬としてヒロインを天川さんだとするとこの設定でどんなシナリオが展開されていくかといく――」
「ああ、もういい」
どうでもよくなったので弁当に集中することにした。
箸で米をちまちまつまみ、気が向いたらペットボルの冷たい緑茶を啜る。和むな。
適当に鶯豆もつまんみ、甘いもの繋がりで適度に焦げ目のついた卵焼きを、
「弁当に卵焼きっても、お約束だと思わないか?」
横から渡がとっていった。
「おい」
「どうした、怖い顔して。ああ、弁当は屋外でサンドイッチ派か。それもありだ」
「お前は人が和んでるときになにすんだよ」
「いいじゃないか。減るもんでもない」
「減るってんだよ!」
なんて言っても腹のなかに消えていったものは原型を留めては戻ってこない。やすらかに消化されるのを祈るばかりである。が、
「うっわ、このからあげ、冷凍じゃないよ」
「ミコちゃんはいつも自作だかね。不思議も教えてもらえば?」
「え、いいの? ありがとー、水原君」
仕方なしに食事を再開しようとした、とたんに横から今度は九重の手がからあげを奪っていった。
「九重、お前は俺に恨みでもあるのか?」
「沙織に近づくのはだいたいみんな敵だよ。手だしたらギターのハードケースで頭割ってあげるから」
九重と怖い会話をしているうちに、気が付けば弁当箱の中身は米だけを残して半分くらいに減っていた。
どうでもよくなりため息をつくと、突然肩を叩かれ、目の前に百円玉二枚を乗っけた手が現れた。
「まあ、なんだ。勝手に食って悪かった。いまから購買に行けば売れ残りの『おちゃらけメロンパン』くらいなら残ってるだろう」
『おちゃらけメロンパン』というのは古きよき時代の、きゅうりにハチミツをかけるとメロンの味がするというのは実際にやってみたメロンパンである。あまり人気がないことと、罰ゲームの景品としてで有名だ。
百円玉二枚を俺にくれたのはいいが、どうしろというのだ、渡。
結局いつもどおり和むことなく、昼休みも終わり、実力テストが始まる。
なんというかどこにでもあるような公立中学から進学してきた俺としては始業式の午後にテストをやるというのはなかなか新鮮だ。高校入学の多いB組ではみんなが同じ気分のはずだ。まあ、他の普通科クラスのやつらは付属中学からの入学なので慣れているだろうけれど。それでも基礎ばっかりで簡単だから気楽だ。寝てたっていいくらいだ。というかクラスの半分くらいはすでに寝ているか落書きに興じている。
勉強だけは歴代のB組の中で最高レベルに達すると言われているだけはある。
「えっと最後の問題は」
小声でつぶやき、英語の最後の問題にとりかかる。
「Everestのネパール語名をカタカナで書き、その意味を2つ答えなさい」
はい?
いや、英語ほとんど関係ないし。
確かに英語の教科書にエベレストの写真が小さく載って記憶はあるが、そんな説明受けた覚えが無い。
「ねー、どうだった、英語」
「最後の問題以外は全部正解してるから90何点ってとこだな」
「うわー、普通に全部正解してるとか言ってるー」
「なんだよ、沙織だって出来ただろあのくらい」
「うん。最後以外は楽勝」
女装癖のあるおかしな友人だって勉強はできるのだ。その辺だけは教師たちもうれしいことだろう。
「で、渡はできたのか?」
「当然だ」
得意気に腕をくんで、ふふんとかやっている。
「答えなんなんだよ」
「説明しよう! というわけで、小鳥遊さーん」
「なーにー」
渡に呼ばれて、小鳥遊が間伸びたアニメ声を発しながらやってくる。
「はい、気を付け」
「え?」
「エベレストのネパール語名はサガルマーターという」
「ほお」
「でもってその意味は『大空の頭』ともう一つは彼女のような人間を指すわけだ」
「しつもーん」
「はい、小鳥遊くん」
突然呼ばれて気を付けさせられて、英語の問題の説明をされているのだ。謎であろう。
「サガルマーターの意味は『大空の頭』って意味と『世界の頂上』だけど、なんで私なの?」
なんで知ってるんだよ。
「だって現実世界でロリの頂点って言ったらキミだろう」
「ち、違うもん! ロリっ娘じゃないもん。わたしもう十六歳だもん」
「安心したまえ。現在日本で崇拝されているロリっ娘の大半は十八歳以上だ。それより低いんだからもはや業界の頂点と言って過言ではない。よっ、サガルマーター!」
「激しく同意!」
例によって現れた間中と一緒に渡はからかってるのかマジなのか同じような話題を小鳥遊に振り、振られた方は頬を膨らませながら必死に背伸びして二人の胸をぽかぽか叩いている。いや、擬音ではなく本当にぽかぽかなのだ。あまりにも不憫だ。
「おい、こら、高瀬、間中。あゆかをいじめたら顔をぐちゃぐちゃにするよ」
「だそうだ、渡、間中。さっさとやめておけ」
「うん。もうわかったから」
「それもそうだな。あははははー」
爽やかな笑顔で腰に手を当てて体をそる。
「大丈夫だった、あゆか」
「二人とも嫌いだよ。いじめっ子はかっこ悪いんだよ」
半泣きの小鳥遊を九重は頭を撫でて慰める。余談ではあるが、この二人はうちのクラスでは珍しい付属幼稚舎から一緒という付属上がり組なのだ。仲間意識というより腐れ縁的親友らしい。
ゴスロリ九重とロリロリ小鳥遊。はまりすぎすぎていてむしろ怖いが、二人をみているとむしろ微笑ましい。
そんな二人も今では俺や渡と一緒にうちで食事したり、休日ともなれば街を闊歩するような仲になっていたりする。
なんだか中学で渡と知り合ってから妙に人が集まるようになったが、それが高校になれば変人の中心になってしまっている自分がいる。退屈しないが、疲れる。まあ、いいんだけど。
「はてなちゃん大好き〜」
あゆかが不思議に抱きつく、ふむ、微笑ましいじゃないか。
「おっと、まったく、こんなところで。続きは家に帰ってからね」
どんな関係だよ…。やっぱへんな奴ばかりだ…。
「ええ、そんなわけで本日は終わり。明日からまた平常だからがんばるように。ってさっき職員会議でくばられた紙に書いてあるからがんばるように。
そうそう。明日の体育だけど、男子は汗臭い柔道で、女子はやる方もみる方も恥ずかしい創作ダンスだそうだ。先生は今から楽しみだぞー」
本当に楽しそうである。素人の滑稽な柔道や小っ恥ずかしいダンスをみれるのがそんなにうれしいのだろうか。
「じゃ、高瀬」
渡の号令でみな家路につく。
「ああ、天川と水原はちょっと残ってくれ」
またかよ。今度はなにやらされるんだ。
「というわけで初日だったわけだが、どうだ、天川」
「すごいですね」
まったくもって。
「そうだな。で、なにがすごいってこの学校はバカみたいにでかいわけだ。とてもパンフみて理解しろと言っても無理がある。そしてあたしは案内なんて面倒なことはしなくない。よって水原。お前が天川に校内を案内してやれ」
「お断りします」
即答してすぐに背を向ける。
「まあ、待て。どうせ夕食まで時間あるだろう。あたしだってこれからまだ雑事が残ってるんだ。帰りは車に乗せてやるから我慢してくれ」
「いやだ。帰って寝たい。というかなんでいちいちうちに食べに来る」
夏葵さんはちょくちょくうちに食べに来る。優夢ちゃんも一緒なことが多いのであまり強くは言えないが。
「テスト中十分寝ただろうが。夕食だってそっちの好意をありがたく受け取ってじゃないか」
「半端に寝たせいで余計に眠い。食べにくるのはいいけどあんまり騒がないでください」
面倒なことは嫌いだし、なにより天川さんとはあまり関わりたくない。不穏な空気の塊みたいなやつの相手をなぜやらにゃならんのだ。
「あの」
放置されていた天川さんが唐突に切り出した。
「大丈夫です。一人でみてまわれます。水原くんは忙しいようなので、あまり迷惑はかけたくありません」
「水原!」
天川さんが喋り終えた直後に思いっきりひっぱたかれた。
「こんな今時、痛い目にしかあわなそうな素直な子ほっとくのか」
いや、たしかにその的を射た表現を言われるとあまりにも痛いのだ。だが、まあ。
「ああ、もう」
頭をかいて、
「わかりましたよ。やりますよ、やらせてください。ありがとう」
状況が悪くなるとやけになる自分の性格をどうにかしたくなった。
で、結局俺は天川さんをつれて一応は教室の外にでたが、はっきり言って案内しようにもどこを案内していいのかわからない。半端じゃない広さをほこるこの学校は一から十まで説明させてくれるような余裕を与えてはくれないのだ。
「あー、で、どこ案内しようか。広すぎて全部はどうやっても無理だからな」
「端から端まで全部お願いします」
「いや、間髪入れず答えてくれてありがとう。だけど人の話しは聞いてくれ」
「時間も体力も気にしなくて大丈夫」
本当に全部まわる気でいるらしい。自分勝手なのか身の程知らずなのか、まあ任をうけたからには出来る限りは答えよう。
「わかった。じゃあ、今は一階だから中央学生食堂に行くか。ちょっとやっておきたいこともあるし」
「わかりました。ついてきます」
正三角形になるように配置された三つの巨大校舎。これだけ敷地が広いのだからもっといくつかの館にわけたほうがよかったのではないかと思う。なんといっても教室棟では普通、商業、工業、体育、芸能、音楽、国際英文科などすべてが一緒くたになっているのだ。一応、科によって教室の場所も区切られている。ただし、特別進学クラスA組、特別指導クラスB組に関しては各学年に一つしかない。あとはアルファベットではなく数字で組み分けされる。
専門教室棟に関しては音楽室だけで第一から第十まであったりする。また、音楽科には特別に別の音楽室まで用意されているが。
部室棟は文化部がその規模によっていくつの部室が割り振られている。一部は運動部の物置扱いであるが、基本的に運動部の部室は外か体育館横の別棟なのであまり利用はされていない。
パンフで写真を見たならわかると思うが、各棟の一階、三階、五階は渡り廊下でつながれていて、その中央にはホールがある。一階に関してはそのホールが巨大な学食兼購買になってるわけだ。
学食は定員千名を超える巨大さ。まあ、無理して詰め込んでる感はあるけど。ちなみにカウンターは円形の食堂の壁にそって、ずらっと並んでいる。あまりにも利用者数が多いので、ありがちな食券方式も使っていない。事前に配布されているメニューリストの中からほしいものをメモ帳かなんかに番号で書いて提出するのだ。料金の支払いについては生徒手帳を使う。手帳にも金がかかっていて、一つ一つにICカードの機能がついている。カウンターに設置してあるリーダーに通すだけでいいのでだれでもできるし早い。金は後日指定の口座から引き落とされる。その辺は頭つかっているらしい。購買に関しては大きくつくったコンビニみたいな感じだ。なんと雑誌まで売ってたりするから利用者は後を絶たない。食料品に関してはオリジナルの商品もある。まあ、内容的に朝一で並ばないといけないようなものから罰ゲーム扱いのものまでさまざまだが。ちなみに支払い方法は食堂と同じ。
とまあ、こんな感じでいろいろと説明しているうちに学食についた。はっきり言ってここまで来るだけでもかなりの運動になる。現実感ってものを考えてもらいたい。
「で、ここが食堂兼購買だ。笑えるくらい広いだろ」
「遊園地の食堂を大きくしたような感じですね。それで、ここに用があるんでしょ?」
「ああ、そうだった」
俺は入り口近くにある端末を起動させる。
この端末は各フロアにいくつか設置されているもので、起動手段は生徒手帳だ。学園内の施設はだいたいこれで使用できる。
十秒に満たないデモが流れたのちナビゲーターの『マリア』が現れる。ギャルゲーとかで出てきそうなロリ入ったカソックを着た女の子。高度なプログラムが組まれているらしくかなり人間らしい反応をするらしい。実際にちょっとした会話も可能だそうだ。ちなみに俺は今日始めてこれを利用した。
ただ今日はそんな暇はないので、さっさと用事を済ませる。とはいっても今日のことに関するものだが。
「マリア、校内全体を効率よくまわるルートを算出してプリントしてくれ」
ハキハキとしたアニメ声で了承した後、端末横のプリンタからびろびろと紙が出てくる。
「ありがと」
プログラム相手に礼を言って電源を落とす。
「さて、行こうか」
「なんですか、それ?」
「どっちだ?」
俺はプリントされてきた紙を掲げ、空いた手で端末を指差す。
「両方です」
「じゃあ、まずこっちの紙切れだが、これから案内する上で効率のいいルートを算出したものだ。これで少しは楽になるだろ。体力に自信はあっても無駄にはつかいたくないだろ?」
「はい」
「で、こっちの端末だが、各フロアにいくつか用意されてるもので、生徒手帳を使って起動させればいろいろと学校に関する情報を引き出せる。経理とかにはプロテクトがかかってるそうだが、こういった内容に関しては演算してその結果まで出してくれるすぐれものだ。操作方法も音声認識だからだれでもできるだろ」
「ずいぶんの進んでるんですね。前の学校とはすごい違いです」
「天川さんの言う前の学校がどの程度だったのかは知らないが、まあ日本でここまでやってる高校は他にないんじゃないかな。アメリカとイギリスにある姉妹校は似たようなもんらしいけど」
「……アメリカとイギリスにも似たような生徒がいっぱいいるんですか」
あからさまに嫌そうな顔をしているところからすると、今朝方の間中たちのことをあまりよくは思っていないようだ。
「どうだかな。日本は裏を返せば変人ばっかりだし。むしろ向こうはガチガチの硬派ばっかりかも。それにうちのクラスは成績いいけど変人ばかりを集めた特別指導学級だからな。隣のA組は本当の優等生ばっかだしな。あんまり悲観するもんでもない。因みに成績の方は優等生組よりもこっちの方が高いぞ。学年全体での上位4人が全てうちのクラスらしいから」
「わ、私は特別指導学級ですか」
「どうなんだろうな。まずB組に入れる基準がよくわからん。俺だってなんで自分がBなのか、いまだに、わからんからな。ま、俺の周りのやつらはどう考えてもBでいいんだけど」
そう。うちのクラスにだって俺のようになんでBなのかわからんようなのが何人もいるのだ。まあ、裏でなにかしているタイプなのか、面接で口をすべらしてやばいことになったやつとかまではわからんが、それなりに普通のやつもいるのだ。目の前の天川さんだって普通だ。まあいきなり職員室抜け出して道も分からんのに屋上までたどり着き、空を眺めている女の子が変じゃないといえば嘘になるが。
雑談と説明を交えつつプリントと照らし合わせながら校内を歩いていく。ペースとしてはなかなかいい方じゃないかな。体育館やら倉庫まで案内させられると骨も折れるが、校内だけなら作りはどれも同じようなものなので案外手っ取り早い。専門教室は全部隣あっているわけだし、通常教室は教室が連続しているだけだ。説明も早い。
と、携帯が鳴る。
「あ、悪い、少し待ってくれ」
「はい」
了承を取ってから携帯を取る。通話ボタンを押す前にディスプレイを確認すると美海姉さんからだった
「ああ、なに?」
『あ、トーマ。いまどこ?』
「学校。転入生を案内してるところ。悪いけど帰り遅くなる。夕食には間に合うから」
『いいよ、いいよ。それよりその転入生さんなんだけど』
「どうかしたのか」
『渡くんの話だとすごくおもしろいらしいから、つれてきてくれない? 夕食もご馳走するから』
「いきなり誘ったら俺が軟派野郎だと思われるだろ」
『始業式のときに屋上でサボってたの愛海に教えちゃうよ?』
「何でしってんだよ」
『なんでかなー。細かいことは気にしないでお願いね。それじゃ』
一方的に切られる。逆らってもどうしようもない気がするのは錯覚じゃないだろうから、あきらめて天川さんに向き直る。
「どうしたんですか?」
「いや、姉からだったんだが、天川さんをうちにつれてきてほしいとのことだ」
「え、私を」
「新しいものとおもしろいものが大好きな人だから。夕食もご馳走するそうだ。どうせ今日は夏葵さんたちも来るだろうし歓迎会がてらどうだ? 無理にとはいわないけど」
「考えておきます」
「わかった。どうせまわり終わるのはまだまだ先だ」
即答で考えておきますか。普通は断るかもう少し深く考えると思うのだが、やっぱりよくわからん。
その後すべてをまわり終えたのが午後五時ごろ。ちょうど日が落ち始めてもいない。まだ夏場なので日もながい。
「と、まあこんな感じだったが、どうだ?」
「広すぎです」
「だから言っただろ。ああ、いや。一日で全部まわろうとした俺が悪かった」
「いえ、おもしろかったからいいです。ありがとうございました」
笑顔で答えてくれるのはありがたいが、こっちは疲労でもうどうでもいいよといった感じだ。
これで、もし案内中にクラスメートや愛海さんやらに会う羽目になったら死んでいたかもしれない。
「それじゃ、俺は帰るよ。また明日」
「まってください」
「なに?」
「また明日じゃないです。あの、私は水原さんのお姉さんに呼ばれているんですよね」
ああ、そういえばそんな話もあったな。完全に忘れてた。
「ああ、来るのか。わかった案内する」
夏葵さんが車で送ってくれると言っていたのを思い出し職員室まで足を運んでみたが、結局すでにいなかったので、結局家までの道のりも天川さんを隣にして歩くことになった。
ついでだから帰り道にそって案内もした。うちが高級住宅街の最奥にあると言ったときの表情の怖さは半端ではなかったが。
日永適当に生きてる分、今日と言う日はかなり気苦労の絶えない日ではあった。
「で、ここがうち」
さっさと招き入れて苦労の一つを減らした。
リビングではすでに宴会の準備みたいなことが始まっていた。普段使っているキッチン横の食事用テーブルだけでは当然まかないきれないので、リビングの大きい楕円形テーブルにもいろいろ置かれている。
「ずいぶん多いな。だれ呼んだんだ?」
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい」
「ただいまミコ」
「えっと、そっちの人が」
「はじめまして、天川道流です」
「道流さんですね。妹の美恋音です。よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくおねがいします。」
キッチンで料理の準備をしていた美海姉さんもやってくる。いまだキッチンの中では双海姉さんと愛海さんが罵り合っているのが見える。それを止めているのが、1年A組担任で夏葵さんの友人、神楽坂先生。その情景を見て、ソファーに寝そべって笑う夏葵さんと、その横で優雅に微笑む百合乃さん。キッチンの中では優夢ちゃんがあたふたしていて、美恋音がそれをなだめている。さっきから俺の部屋で勝手に待機していたらしい渡たちも集まり、改めて自己紹介をした。
こうしてみると案外仲間が多いことに驚かされる。美海姉さんに双海姉さん。妹の美恋音。叔母の愛海さんは言うに及ばず、友人の渡、沙織、不思議、あゆか、間中。姉さんの友人の百合乃さん。担任の夏葵さんにその妹の優夢ちゃん。夏葵さんの友人の神楽坂先生。
中学のときは何人だったっけ。えっと姉さんたちは除外するとして、渡、百合乃さん、優夢ちゃん。すごい増殖率だな。高校の友人は一生もんだそうだから大事にしておこう。
いろいろ考えていると歓迎会と銘うった宴会の音頭が始まろうとしてた。演説しているのは渡。
「ええ、それでは二学期開始と新たな背徳者の歓迎を兼ねまして」
「だれが背徳者だ、だれが」
「あ、いや失敬。ええ二学期開始と新しい友人の歓迎を祝い、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
バカみたいたくさんの人数が集まってもまだ余裕がある広いリビング。今まで人が集まることなんてあんまりなかったからそれなりに新鮮ではある。無駄に広いというのも考えものだったからな。
ならんだ料理は和洋中。飲み物まで和洋中。なんでもござれのどんちゃん騒ぎは続く。
「天川さん、大丈夫か?」
「はい。みなさん楽しそうでいいですね。眺めているとこっちも幸せな気分になります」
「そうか。届かない料理があったら言ってくれ。引っ張ってくるから」
すごいもんだ。この個性の塊の中で自我を保って平然としてる。
「ねえねえ、道流ちゃん」
「なんですか、美海さん」
「普段着ってどんなのがいい? やっぱり道流ちゃんみたいなのだと不思議ちゃんみたいなゴシックロリータは違うよね。もっと自己主張の少ない質素なやつがいいかな。それでいて気品が漂うようなやつ。注文あればいくらでも作るけど、どう?」
「えっと、あの、なんの話しでしょうか?」
「服だよ、服。やっぱり女の子なんだから服装とかには気を使わないとね。やっぱり普通に店で買うのもいいけど自作が一番だよね。安っぽい生地の肌触りがまたなんとも言えなくて」
一人で延々話し続ける美海姉さん。どこか頬が赤い気がするが。
「って、こらそこ! 酒だすな!!」
「なーに硬いこと言ってんだよ水原。ほれ、お前も飲むだろ? 一ヶ月前から予約してようやく手に入れた大吟醸『四面楚歌』!」
「そんないかがわしい名前の酒なんか飲めるか!」
「いや、そんなこと言ってもすでにみんな出来上がってるぞ」
見回してみるとかなりひどいことになっていた。渡はコーラのラッパ飲み、間中は皿回しで、沙織と九重はなんだかいい雰囲気になり、小鳥遊が酔ってるせいか、その情景をみて慌ててるのか顔を赤くして口をぱくぱくさせ、双海姉さんと愛海さんはあわや殴りあいにでもなろうかというほどに殺気を飛ばしあい、それをみていつもどおり微笑んでいるのが百合乃さん。美恋音は給仕に勤しんでいる。
「いい感じじゃないか。ほれ、飲めよ、水原」
「こらっ! 勝手につぐな」
怒りながらもなんだか忘れていた優夢ちゃんをみてみると、なんだか頭がふらふらしていた。
「ってやばいだろあれ!」
「あははー、優夢はだめだなー。そんなんじゃいい女になれないぞー」
「止めろよ!」
あははーとか笑っている。だめだ、もう。
「はっ、神楽坂先生! どうにかしてくださいっ!」
「あー? 水原ー。だいたいお前みたいな優秀なやつがなんでBなんだよ。おかしいだろ? 実はむっつりか? お盛んか? そりゃ男の子の理想を集めたような状況で生存してるわけだからそりゃおかしいだろうさ。それでも納得いかねー!」
ああ、だめだ。この人も酔ったら夏葵さんと同じだ。役にたたん。
愛海さんは除外だ。どうせ双海姉さんと不毛な争いを現在進行形でやってるし。
こうなると頼みの綱は百合乃さんなんだけど、頬に手を当てて戯れる子供を見るような目であらあらとか言っている。状況を楽しんでいるのか無駄だと悟っているのかよくわからないが言っても無駄だろう。
「本当にすまん」
「おもしろい人たちですね」
本当にうれしそうに天川さんが言ってくれるのは嬉しいが俺の心はかなり寂しい。
「ステキですね」
「あ?」
「こうやって友達が集まって騒ぐのってステキですよね」
「どうだかな。少なくともこの状況はステキというより殺伐といった感じだな」
というかそういった話を聞くとなんというか友達少ない悲しい子みたいなイメージが強くなってくる。
「それでもいいです。一緒になにかすることに意味があるんです」
そんなもんか。今まで体育祭やら文化祭とかは適当にしかやってこなかったから共同作業とかいうのにあまり慣れてないし大して興味も無い。現状をステキとか言えるやつの神経は俺には理解できない。
二学期は苦手な団体行動のオンパレードだ。あんまり好きじゃない。
「そのわりには一人で空見たりしてるのな」
「えへへ」
なんだか普通の女の子よりさらに幼い感じの笑い方をしている。数時間前までとはえらい違いだ。
「はい」
「なにこれ?」
水みたいなものを急に差し出される。
「お酒」
「やめとけ、未成年」
「酔わないと痛い目みますよ?」
「もういいよ」
なかば自暴自棄になって原型を留めてない料理の数々を目の前の惨劇をおかずにして食べることにした。
そして結局、最後は百合乃さんや美恋音まで酒を飲み、例によってみんながダウンした後に一人屋上でコーヒーなんぞすする。
街から離れていて夜景なんてものは民家の明かりくらいなもんだが、今日は星が綺麗だ。
「詩的な自分がなんかな」
自分で言うのもなんだが似合ってない。しかしながら最近は屋上でのんびりするなんて日も減ったものだ。愛海さんが止めに来るからな。母さん的心理学理論だと高いところが好きなのはバカと煙と自殺志願者だそうだ。確かに高いところから景色を見下ろすと飛べるような錯覚を覚えることはある。ちなみに実際やったがバカもいるそうだ。が実際にやろうなんて俺は微塵も思ってない。一般的にも精神状態が不安定なときに高所に来ると無意識に飛び降りたりしちゃうそうだ。それでも心配だからと妹の愛海さんをよこしたわけだ。迷惑ではないがなにかと面倒ではある。
今日も波乱だった。偶然行った屋上で変な女の子に会い、気が付けば転入生で同じクラスの隣の席。いつの間にやら学園を案内することになり、あれよあれよと街まで案内してしまいにはうちで歓迎会までやってるのだ。体力とかより精神的疲労が強い。
「へえ、この家は屋上もあるんですね」
突然後ろから声がする。
「天川さん……」
「憂鬱そうですね。迷惑でしたか?」
「いや、一人で屋上にいるとうるさい人もいるからね。ちょうどよかった」
「そう」
二人でぼーっと上を見上げる。会話もない。
「都馬さん」
「はい?」
突然名前を呼ばれる。それも同じ歳の人間にさん付けだ。違和感がある。百合乃さんとかに言われてもまるで抵抗はないんだが。
「名前で呼んでいいですか?」
唐突だな。まあ俺も唐突に沙織を名前で呼ぶようになったか。
「好きにしてくれ」
別段恥ずかしいわけでもないのになぜだかぶっきらぼうになる自分がなんかおかしく感じる。
「私のことも道流でいいですよ」
「言われなくてそう呼ぶから」
「そう」
で、結局またぼーっと空を見上げる。星座はよくわからなし、流れ星がみれるわけでもない。これといって刺激のない夜空だ。
「そういえば家に連絡しなくていいのか? 親は案外心配するもんだぞ」
「大丈夫です。私こっちきてから一人暮らしですから」
「なんでまた」
どうせ転入してきたなら一人暮らしをしている理由がわからない。
「もともと私はこっちの学校受験したんです」
「言いにくいが、落ちたんだな?」
「落ちました」
なんか推薦で当たり前のように入った自分が悪い人のような気がしてくるな、こういう話し聞くと。沙織や間中でも受かるような学校なんだから、基本的に学力が足りてなかっただけの話なんだろうが、なんの努力もしてない自分が受かるというのはどんなもんだろうか。
「それでわざわざ受けなおしたのか? 確かに県外くらいの距離からなら特例で編入試験も受けられるか」
「そう。で、親に頼み込んで夏休み中に受験しなおしてようやく通えるようになったの」
たいそうご苦労なことで。そこまで魅力のある学校だとも思えないけどな。
「なんか目的でもあったのか?」
「なんとなくこの街にきたかったんでしょうか?」
「いや質問をなんとなく質問で返されても困る」
結局謎キャラのまま終わるのか。
「街じゃなくて会いたい人がいたような、いないような」
「なんだよそれ」
まったくわからん。わざわざ親元を離れてこんなところまできておいて目的が不確かってのはおかしいだろう。
「じゃあ、会いたい人がいたと仮定してそいつはだれなんだよ」
「シノミヤ」
「……知らんな」
シノミヤ、四之宮、篠宮。字なら浮かぶがこの辺りでそんな苗字の家はみたことがない。小中高とクラスが一緒になったやつや話題になるようなやつにもいなかった。あまり自信はないが。
「せめて名前とかわからないのか? 家庭の事情やなんやらで苗字変わってるかもしれないだろ」
「知りません。苗字の方が好きだからってそっちしか教えてくれませんでしたから」
またずいぶん難儀な小僧だか小娘だな。何歳のときだかはしらんが、今時苗字の方が好きなんてやつはそういないんじゃないだろうか。俺だって水原と呼ばれるよりは都馬と呼ばれるほうが気分はいい。
「まあ、会えたらいいな」
「応援とかしてくれないんですか?」
「無闇に応援なんてすると後先面倒に巻き込まれそうだからな」
中学時代に生徒会長にはれて任命された渡に「がんばれ会長」と言ったとたんに「じゃ、都馬は副会長で俺の補佐ね」とか言われて気が付けば生徒会室で書類書いたりしていたのだ。苦労はしたくない。
「しっかりしてるんですね。普通ならそこでがんばれって言いますよ」
「俺はヒーローじゃないんだ。無責任に応援したり、協力するとか言ってみてもどうにかできるだけの能力が無い。だから無闇に応援したり慰めたりしないからその辺はあんまり期待するなよ」
それにしても、
「もう時間的にやばいかな。送るぞ」
「送ってくれるんですか?」
「帰り道で社会問題の最先端みたいなやつに襲われたら俺が気分悪いんだ」
家の中に戻り、十三名が屍を晒しているリビングを確認してから外にでた。
別に会話するわけでもなく街を歩く。道流の家はアパート密集地のありきたりなワンルームアパートだった。
「いちいちアパート借りるくらいなら、学生寮に入ればよかったのに」
「相部屋って苦手なんですよ。それに、今は都馬さんの家に近いこっちのほうを選んでむしろよかったと思っています」
そうかい。つまり道流もちょくちょくうちにくるような変なやつなんだな。まあ、いいさ。今日、唯一酔いつぶれなかったような、理性のあるやつだし。
「お茶でも飲んでいきますか?」
「遠慮しとく。帰って片付けとかしないといけないからな」
「そうですか。それではまた明日」
「ああ、おやすみ」
挨拶をして別れる。のんびり歩いてどれだけ叫んでも道流に聞こえないような位置まできてから、
「いちいち尾行しなくてもいいんじゃないか」
振り向いて渡に呼びかける。
「なんだ、気づいてたのか」
「当たり前だ。これだけ静かなら足音の数くらいは把握できる」
「エージェントみたいなやつだな。俺だって足踏み合わせてたつもりだったんだが」
「そんなことができるお前だってエージェントみたいだぞ」
「ほめるなよー」
頭をかきながらへらへら笑う。
「で、その首から提げて燦然と輝く一眼レフなんだ?」
「いわゆる高いカメラだ」
「意味は」
「突然の転校生と学園きってのクールビューティー都馬夜の密会! 衝撃映像満載で今月号はお届けさ!」
「やめとけ。前に愛海さんの記事書いてこってり絞られただろ。そろそろ落ち着け」
「ご忠告感謝する。しかしながら男の子というのは探究心の塊、略してタンマリ。日々おもしろい記事を書くことに情熱を燃やして何が悪い」
「せめてその情熱と諸所才能を社会の役に立つことにでも使え」
結局その後歩きながら俺が文句を言って渡が流すということを延々付けながら帰った。
翌日午前七時三十分。
夏葵さんと優夢ちゃんはなんとか帰宅したが、学校に間に合うかは微妙なところだろう。神楽坂先生も似たようなもんだ。
沙織や間中は学校から直接きてるので今日も直接行くだけだ。
いつもより人数の多い朝食を終えて家をでる。途中で美恋音と別れて、さらに進んだところで道流と合流する。和気藹々とした雰囲気で学園に到着。さっそく始まった平常授業に眠気を誘われつつも適当にノートをとる。昼食はいつもどおりの弁当。渡は用事があるとか言ってどこかに行ってしまった。新しい友達を交えて食ったり駄弁ったり。そんな刺激の無い時間は唐突に終わりを告げた。
『ええー、テステス。本日は晴天なり。そろそろ太陽さんも鬱陶しくなってきたねー』
突然の放送。言いたくはあいつだ。なんだか後ろで戸を思いっきり叩くような音や図太い叫び声が聞こえるがまあ、ジャックでもしたんだろう。
「この声って」
「渡だな」
「またなにかやるのかな?」
『本日我等が新聞部の新刊が学園総合掲示板にて掲載されております。近場にはスタッフがビラくばりもやっているのでぜひどうぞ。ええ、ついでに連絡、1年B組の水原都馬くん。逃げたほうがいいかもよ』
さらっとやばいことを言って放送が切れる。
「すまん。五限目休む」
「行ってらっしゃい」
教室を出て全力疾走で屋上まで駆け上がる。案の定人は少ない。大半が下の階に行ってるからだ。掲示板を見てからここにあいっちこっち探して屋上に到達するころには昼休みも終わりかけている。そうなればB組のバカどもでもないかぎりは追ってこないだろう。
どうせ五限目は休むって言ってきたし、一眠りするのもありか。ちょうど眠いし。けど、寝込み襲われたら一発だからな。さて、どうするか。
などと考えるまでもないか。貯水タンクの横というのはだいたいの場合が死角になっている。まあ、だからといって見逃すようなバカはいないだろうが。それでも俺は殺気だっただれかが近づいてくれば気づくくらいの自信はある。双海姉さんみたいに悪気もなく蹴ったりする人は別として。
梯子を上って貯水タンクの横までくる。案の定、寝転べばまず下からは見えない。
普段屋上にいるよりさらに高い視点。しかしながらフェンスから離れているため下界は除きにくく案外景色はよろしくない。
まあ、空が近く感じられるかな。山男とかライト兄弟はこんな気分を味わったのだろうか。
ふと、真下の入り口が開く。やばいと思い、相手を確認できるくらいに頭を出して隠れる。
高くもなければ低くもない身長。顔は童顔といっても差し支えないが、幼すぎるわけでもないかわいい系。服装は沙織のような男女逆転でもなければ九重のようなゴシックロリータでもない。普通に見慣れない制服だ。
言うに及ばず。
「五限目にも授業はあるぞ、道流」
頭上から降ってきた声に驚いたのか、緊張状態で後ろから肩を叩かれたような表情で振り向く。
「……サボったくせに」
痛いことを言ってくる。なにも反論できないからこそ痛い。
「仕方ないだろう。道流と一緒に夜道歩いてるなんて写真公開されてんだ。頭のおかしな奴が襲ってきてもおかしくない」
「べつに私と一緒に歩いてたって問題ないじゃないですか」
「ああ、ない。普通ならない。けど、道流の場合は転入生なんておかしな設定がくっついてるんだ。まわりが道流になれるまではそうもいかん。少なくともBでは」
実際にB組では転入生を初日から毒牙にかけた低俗で下品な蛆虫野郎扱いされているだろう。
「そういうものですか」
「そういうものだと思っておけ」
道流も登ってくる。
「どうぞ」
突然ポケットから缶コーヒー差し出してくる。ついでに自分の分も。スカートに缶が二本も入るようなポケットがついているのが驚きだ。いや、普通のスカートがどんなもんかも知らないからなんとも言えないが。
「一応言っとくが金はださんぞ」
「おごり」
そりゃありがたい。眠気が覚めてしまいそうなのはいささか不満だが。
「ところでなんできたんだ? それも屋上なんかに」
「ただ間中さんに『水原ならどうせ屋上で寝てるから連れ戻してきてくれ』と言われたから」
「俺の昨日の案内は無駄だったか? 普通に考えて教室からここまでくるのにどれだけ時間かかると思ってるんだ」
こんな単純なミスをするようだから受験に落ちるのだろうか。しかしなんというか雰囲気とか喋り方とかからすると頭よさそうなのにそうでもないのか。
「ところで五限目ってなんだっけ?」
「英語です。けど潰して体育祭のことを決めるって今朝言ってました」
「ちょっとまて」
いかん。いかんぞ。いくらなんでもそれはやばい。絶対にほとんど全部の競技に出ることになる。どうせあいつらのことだ。金にも内申点にも関係ないようなことを喜んでやるのは渡と反政府ゲリラみたいなB組帝国主義野郎くらいなもんだ。クラスの大半だが。どうする。
「どうしたんですか」
「ああ、いや」
唐突に携帯が鳴る。
「メールだな」
俺にメール出す奴なんて片手の指にあまる。まあ渡だろう。
「えっと」
『親愛なる水原都馬さま。やっほー、渡くんだよ(^^♪ 急いで打ってるから誤字多くても許してね。都馬くんの参加競技は 200m×4リレーのみ。結構がんばっただろ、俺も? まあ全員参加の騎馬戦とクラス対抗綱引きは強制だけどな。気合入れてこうぜ!』
「だれですか」
「渡。いい友達持ったよ」
「よくわかりませんけど、よかったですね」
その後俺たちは適当に語らい、俺はいつの間にか寝てしまった。終業の鐘が鳴って道流に起こされるまで延々眠り続けていた。その間、道流がなにをやっていたのかはわからない。
起きたはいいものの寝ぼけていたために思いっきり梯子から足を踏み外し、仰向けになって落下した。降り注ぐ陽光が目に沁み、どこまでも広い空にうらめしさを感じながら身もだえした。痛すぎる。
今日も結局は道流と一緒に帰った。珍しく渡や、その他大勢が尾行しているような感じもしなかった。気楽な帰宅というのもまたありがたい。
だが、翌日は朝っぱらから夏葵先生に午後の授業をサボったことを怒られる。それはもう国会で議題にしてもいいほどの過激な体罰をセットにして。その後HRを潰して俺の弾劾裁判が行われたのは言うまでもなく、リレーも結局一番目立つアンカーにされてしまった。メンバーは不思議、沙織、渡、俺の順。この半端なメンバーでどこまで戦えるかいささか不安だが、軽く流せばいいのだ。という思考まで読まれたのか今度はまじめにやれというシュプレヒコールに巻き込まれた。そして
道流だけがそんな俺をみて心底うれしそうにしていた。